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フロントランナーに聞く〜芸術文化×観光の現場から〜

NPO法人BEPPU PROJECT 山出淳也さん(左)と本学教員予定者藤野一夫先生(右)

第1回 山出淳也氏(NPO法人BEPPU PROJECT代表理事)
「アートを横串にして、地域をつなぐ」
聞き手:藤野一夫(本学教員予定者)

本学では、芸術文化と観光二つの視点を持ち、地域を活性化させるプロフェッショナルを育成します。目指すのは、分野を越えた知識・スキルを掛け合わせ、新しい可能性を生み出す力、すなわち"越境する力"を持つ人材です。

この特集では、本学が目指す育成人材像として、異なる分野をつなぎながら、芸術文化や観光のフィールドで活躍されている"越境者"にご登場いただき、これまでのキャリアや、ジャンルにとらわれない活動に必要な資質・スキルなどについてお話を伺います。

1回は世界有数の温泉地として知られる大分県別府市を拠点とするNPO法人BEPPU PROJECTの代表理事を務める山出淳也氏です。聞き手は、本学の教員予定者であり、アートマネジメントや文化政策を専門とする藤野一夫先生。「BEPPU PROJECT」を例に、アートを軸に幅広いアプローチで地域活性化に取り組む方法や、そのために必要な力について伺いました。

インタビュー場所 Platform05(NPO法人BEPPU PROJECTが管理運営するレンタルスタジオ)

~アートを軸に多様な分野をつなぐ『BEPPU PROJECT』~

藤野一夫先生(以下、藤野):「初めてお会いしたのは、2009年ですね。山出さんが主宰する『BEPPU PROJECT』が手がけた、現代芸術フェスティバル『混浴温泉世界』(※1)に伺いました。感性が活性化し、日常の風景が変化してゆく鮮烈な経験を忘れることができません」

山出淳也氏(以下、山出):「はい、ありがとうございます」

02beppu.pro_002.jpg 最初の出会いを懐かしむお二人

藤野:「そうした大規模なアートプロジェクトを主導する一方で、教育や福祉、観光、商品開発や施設管理など幅広い分野を手掛けていますよね」

山出:「そうですね。たとえばアーティストを学校や福祉施設に派遣したり、観光事業のお手伝いをしたり、『別府に移住したい』と希望するアーティストがいれば、そのサポートもしています。あるいは、そうした芸術文化振興から派生して、中山間地域の活性化や農林水産業の6次産業化(※2)のプロデュースなども手掛けています」

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これまでと現在の活動を振り返る山出さん

藤野:「文化振興だけとか、教育だけとか、活動の範囲が限定されるNPOも多いと思いますが、どうしてBEPPU PROJECTはそんな風に一つの分野に縛られずに活動できるのでしょうか?」

山出:「そもそも経済や社会の問題は、芸術文化と深く結びついていると考えています。アートが持つ力、たとえば新しい価値を生み出そうとする力とか、課題を発見する力、問題提起する力は、地域社会の問題を解決するのに役立つと思います。地域社会は"縦割り"ではなく、一つの課題は、他の分野、他の産業にもつながっています。だから僕らのような組織が、地域の中の"横串"となって、各企業や団体・行政・人をつなげる役割をする。アートやクリエイティブはそのハブになることができると思います」

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これまでケーススタディとして山出さんの活動も研究をしてきた藤野先生

藤野:「アートを活用した地域づくりということですね」

山出:「はい。地域を魅力的に活性化していく、住みやすくしていくためには、横の関係性、コミュニティの形成がとても重要だと思います。そのコミュニティの形成のために大きな力を持つのがアートだと考えています」

(※1)混浴温泉世界...2009年から2015年にかけて、3年に1回開催された別府市の現代芸術フェスティバル。国内外から多数のアーティストが参加し、アート作品の展示や、音楽・ダンスなどのパフォーマンスを行った。

(※26次産業化...1次産業である農林水産業の従事者が、加工や流通・販売なども含めて行い、独自の工夫を加えることで生産物の価値をより高めようとする取り組みのこと。

~アーティストであり、地域活性化プロデューサー。ボーダーレスな活躍に至るまで~

藤野:「現在の山出さんは、アーティストであり、プロデューサーであり、コンサルタントのような役割もされていますが、自分にとって一番の柱は何だと思っていますか?」

山出:「僕の中では、もはや自分がプロデューサーなのか、コンサルタントなのかといった"色分け"はないかもしれません。でも自分の考え方を形成した大きな部分は、アーティストとしての活動にある。このことはすごく重要だと思っています。アートが自分自身の物の見方を広げてくれていることは間違いないですね」

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「混浴温泉世界」展示作品

"Beppu 04.11-06.14.09" 2009年, マイケル・リン

撮影:久保貴史/(C)別府現代芸術フェスティバル2009実行委員会

藤野:「10代から世界各地を飛び回ってアーティスト活動をされていたわけですが、2005年に日本に帰国、『BEPPU PROJECT』を立ち上げられました。そこにはどんな思いがあったのですか?」

山出:「パリに住んでいた頃に、たまたま別府市でまちづくりに奮闘する人たちの記事をインターネットで見つけました。僕は大分県出身なので懐かしいなと思って記事を読んでみたら、『この人たちに会ってみたい』『話を聞いてみたい』という気持ちが芽生えてきたんです。そして知り合いのアーティストを別府に招いて、現地で作品を作ってもらい、それを街中に展示したら、きっと楽しいだろうし地元の人も喜んでもらえるだろうと想像して......」

06混浴温泉世界2012.jpg「混浴温泉世界」展示作品

"火と水" 2012年, クリスチャン・マークレー

撮影:久保貴史/(C)別府現代芸術フェスティバル「混浴温泉世界」実行委員会

藤野:「実際に故郷に戻って活動を始めてみて、その想像とギャップはありましたか?」

山出:「そうですね。地元の人に、いきなり『国際的なアーティストを連れてきます』って話しても、みんなちんぷんかんぷんなんですよ。『そもそもアートって何ですか?』って聞かれても、言葉が出てこない。その時にとても大切なことに気がつきました。それは、僕は今まである範囲の中、非常に狭い世界の中で生きてきたということ。アートの世界から外に出てみると、まったく言葉が通じないんだな、ということを感じました。そこから改めて、この地域をしっかり見ようと思いました

藤野:「アートの世界に閉じこもって生きている人には共通言語があっても、そこから一歩外に出ると話が通じない、というのはよく聞きますよね」

山出:「でも、『わからない』っていうことに対して、それはこれから知っていけばいい、そのための"伸びしろ"だと考えていくと、未知のことがたくさんあるのは素敵なことだなと思います。わからないことがたくさんあるからこそ、まずは相手の話を聞いて、その人の中にある大切なことは何なのか、掘り起こしていく。『こうしましょう』とか、文化を上から押し付けるのではなく、一緒に見出していくんです」

藤野:「そうやって、その土地に根ざした人たちの営みとアートをつなげ、社会化していくことができるんですね。でも、社会化するために大切なことは何でしょうか?

山出:「そうですね。社会化するためには、一方的に決めつけるのではなく、多様な価値観が共存することが大切だと思っています。それと同時に、観光でも、経済でも、どんな分野においても常に考え方や価値観をアップデートしていくことが必要です。特にコロナ禍においては、どうしても停滞してしまう活動もあると思いますが、その中でも想像力を絶やさない、未来に希望を託すということをテーマにしてきました

~多様な分野をつなぎ、地域を活性化する人材に必要なことは?~

藤野:「本学でも、山出さんのようにアートと観光や経営、経済などをつなげられる人材を育てたいと思っています。そのためには、どのような資質や能力が求められると思いますか?」

山出:「これから特に求められるのはプロデュースの能力だと思います。それも、マネジメントもできて、経営もできて、アートの視点などもあわせ持つ人材が必要だと思います。一人ですべてができなくても、たとえばアーティストと経営力を持つ人が二人一組になるとか、チームになって取り組むというやり方もあると思います

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本学の学生への想いを込めて語ってくださいました

藤野:「山出さんは、アートと経営と両方の視点をどのようにして身につけたんでしょうか?」

山出:「僕はたぶん、ものすごく『観たい』とか『実現したい』という欲求が強いんだと思います。だから絶対にそれを見るために、必要な知識やスキルは自分で学びました。アーティストとして活動する上での作品の作り方や、展覧会を開催する方法などもどこかで学んだということではなく、それが必要だったから自分なりに学び、実践していく中で身につけていきました。今は会社を経営していますが、経営や経済に関する知識もそうです。どこの大学に入るかとか、学ぶ環境を選ぶことはもちろん大切ですが、その環境の中で自発的に、能動的に学ぶことがとても大切だと思います」

藤野:「自ら学ぼうとすれば、より学びが深まっていきますよね」

山出:「そうですね、あとはとにかく目の前の物事に対して、真っさらな新鮮な気持ちで向き合えるというのは重要な能力だと思っています。『観光ってこういうものだ』とか、『うちの地域の名物はこれだ』とか、決めつけずに柔軟に考えること。もしかしたら今まで見向きもしなかったところに大切なものがあるかもしれない。地域の中で新しい観光資源を見つけ出すためにはそういう"観る力"が必要になると思います。固定観念を持たずに物事を観て、柔軟に考えられるかどうか、これはたぶん学ぶことの最大の成果ではないでしょうか」

藤野:「今おっしゃったような真っさらな目で見るということは、非常に重要ですが難しいことですよね。新鮮な眼差しを持ち続けるには、どうしたらいいのでしょうか?」

山出:「家具などのデザインで有名なチャールズ&レイ・イームズ夫妻が製作した『パワーズ・オブ・テン』という教育映画があります。この映画は、まずカメラが公園でピクニックをしている人を映しているところから始まるのですが、徐々にカメラが上空に上がっていき、太陽系を越え、銀河系を越え、宇宙の果てまでいく。そこからまたカメラは地球へ戻っていき、今度は人間の体内に入り、細胞の中まで入っていく。視点はずっと一点ですが、カメラの位置を上げたり下げたりすることで、見える範囲が変わるんです。地域のマネジメントをする時に必要な"観る力"も、これと本質的に同じだと思います。小さなところを深くじっくり見つめることも、少し距離をとって、広く大きく見ることも、両方が必要。そしてそういう複眼的な見方を身につけるために学び、たくさんの経験をすることが大切だと考えています

藤野:「貴重なお話をありがとうございました」

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山出さんとBEPPU PROJECTのメンバー

ここで数多くのプロジェクトが手掛けられています

◆プロフィール

山出淳也

NPO法人BEPPU PROJECT代表理事/アーティスト

1970年大分県生まれ。アーティストとしてニューヨークのPS1インターナショナルスタジオプログラムに参加、文化庁在外研修員としてパリに滞在するなど、国際的に活躍。2005年に地元の大分県でNPO法人BEPPU PROJECTを立ち上げる。別府市で開催された現代芸術フェスティバル「混浴温泉世界」や「in BEPPU」などの総合プロデューサーを務める。

藤野一夫

芸術文化観光専門職大学教員予定者/神戸大学大学院国際文化学研究科教授

1958年東京都生まれ。専門はドイツ思想史、音楽文化論、文化政策学、アートマネジメントなど。日本文化政策学会副会長、(公財)びわ湖芸術文化財団理事、(公財)神戸市民文化振興財団理事ほか、数多くの自治体文化政策に関わる。

◆取材撮影協力

NPO法人BEPPU PROJECThttp://www.beppuproject.com/

撮影場所:Platform05 (別府市中央町9-3

 NPO法人BEPPU PROJECTが管理運営するレンタルスタジオ。

 築100年を超える、伝統的な日本の木造建築である長屋をアーティストやクリエイター、研究者による創作活動や研究活動のために貸し出しています。

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