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イベントお知らせ
学位記授与式を挙行しました

2026年3月27日、学位記授与式を執り行いました。
平田オリザ学長は「今日の日は、皆さんの輝く未来の第一歩です。力強く歩みを始めてください。」と祝辞を述べました
- (祝辞全文はこちら)
芸術文化観光専門職大学第二期生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。
ご家族の皆様におかれましては、ここまで学生たちを陰日向に支えていただき感謝申し上げます。ありがとうございました。本日、卒業生たちの笑顔、自信に満ちた表情をご覧いただき、感慨もひとしおかと存じます。
また、日頃より本学に多大なるご支援、ご協力をいただいております斎藤元彦兵庫県知事、國井総一郎兵庫県公立大学法人理事長、大豊康臣(おおとよやすたか)兵庫県議会副議長はじめ県議会の皆様、兄弟校である兵庫県立大学の皆様、周辺自治体の市長、町長様、そしてなにより、ここまで学生たちを温かく見守ってくださった但馬の地域のすべての住民の皆様に、あらためて心から感謝申し上げます。ここまでのご支援、ご指導、ありがとうございました。
さて、だいたい私は例年、一月に入るあたりから卒業式の式辞、そして来月に控える入学式に何を話すかを考え始めます。しかし今年は本当に困りました。世界情勢が混沌として、明日の見えない状況が続いたからです。力による支配、武力による領土の変更がまかり通り、国際秩序は崩壊寸前です。
日本国内においても、ここ数年、インターネットを中心に排他的な言動が蔓延し、排外主義が正当化されるような傾向が強くあります。このような、明日の見えない世界に皆さんを送り出すことに、人生を少しだけ長く生きてきた者としては申し訳ない気持ちでいっぱいです。
もとより人は、異なる文化や価値観を持った人々を警戒します。それは人類の知恵でもありました。
ここからは授業の中でも少し触れてきたことですが、復習をしておきましょう。
数百万年前、ゴリラやチンパンジーとの競争に敗れ、ジャングルを追われるようにサバンナに出た私たちの祖先は、その弱さ故に、集団で生活する術を身につけました。
本学にもおいでいただいたことのある京都大学元総長でゴリラの研究で知られる山際寿一さんの学説によれば、ゴリラやチンパンジーも共感する力は持っているのだそうです。チンパンジーがダンスのような行為をしたり、ゴリラが鼻歌を歌うことはよく知られています。
しかしヒトは、集団で生活する中で,この共感する力を強めていきました。四百万年前、ヒトは二足歩行を始めます。そして、そのことによって、上半身と下半身の動きが分離し、格段にダンスが上手くなりました。
二足歩行で体型が変わり、喉の喉頭が下がり、声道が広がって、多様な発音が可能になりました。まだ言語は生まれていませんが、人類は格段に歌がうまくなりました。
やがてホモ・サピエンスが登場し、私たちは狩りの手段を進化させていきます。それまでは単純に獲物を追っていたのが、落とし穴を掘ったり、巨大な動物を崖に追いやって仕留めたりするようになりました。
落とし穴に動物を追い込む者と、それを仕留める者という分業が始まります。この追い詰める者は力が強い必要はありません。奇声を発してマンモスを脅かしたり,自分を大きく見せるために装飾をしたりすることのうまい者が、この役割を担いました。人類は、演技が格段に上手くなりました。
こうして人類は、踊る身体、歌う身体、そして演じる身体を獲得してきました。
皆さんが四年間、授業やサークルで大きな情熱を傾けてきた演劇やダンスや音楽,あるいはデザインや装飾は、人間を人間たらしめている、人間を他の霊長類と区別する、もっとも大きな要素の一つです。
私たちは、こうした行為を通じて共感力を強め、そして集団の力,組織の力を強めていきました。牙も角もない、体毛の薄い,見るからに弱々しい私たちの先祖は、長く外敵から隠れるように洞窟に暮らしていました。しかしそれが、大きな共同体を作ることによって、洞窟を出て、村落を形成するようになりました。
しかしこの共感力は一方で、集団と集団を区別する力ともなっていきます。共感するものとしないものとの分断が始まります。
考古学的には、戦争の起源は約一万三千年前と言われています。この時期の地層から、集団同士の衝突の根拠が発掘されているからです。さらに農耕牧畜が始まり、定住が広がることで富の蓄積が起こり、戦闘が加速しました。
これを山際先生は「共感力の暴走」と呼んでいます。集団を強固にするための共感力が内向きに働くと、排外的な力となってしまうのです。過去に芸術が、国威発揚、戦争協力の道具となった歴史も同様の構造を持っています。
しかし、それでも私は、文化、そして芸術に希望を見いだしたいのです。
演出家ピーター・ブルックは、演劇の価値は、人間の差異と同一性をともに、同時に示せるところにあると語っています。私とあなたはこれほどに違うのに、それでも私とあなたはこれほどに似ている。そのことを同じ空間と時間の中で示せるところに、舞台芸術の大きな価値があります。
多様性を認め合うということがよく言われます。しかし、そこに止まってはならない。多様性を力にすることが芸術の役割です。多様な個性を持った集団は維持が難しいですが、しかしその分、高いパフォーマンスを示すことができる。私たちは、そのことを証明していかなければなりません。
ここ但馬にも、もうすぐ春がやってきます。
どの地方でも,冬の終わりとともに、生命の息吹に感謝する祭りが営まれます。
ギリシャ悲劇もまた、春のディオニソス大祭の一環として上演されました。初期にはアテネ市民や、葡萄酒やオリーブ油を買い付けに来る商人たちが主な観客でしたが、やがてはこの演劇を見に来るためだけの観客も増えてきたと言われています。文化観光の起源と言ってもいいでしょう。
そして、この演劇というシステムは、その観光客たちが地元に戻ることによってエーゲ海沿岸全域に広がり、彼の地に数百の巨大な劇場が建てられていきます。そしてギリシャ悲劇の伝播とともにギリシャの文明はその世界を広げていきます。
ギリシャ文明の世界化、いわゆるヘレニズムは、もちろんアレキサンダー大王の覇権がきっかけとなったものです。しかし、一方で当時の劇場は、ギリシャ文明が東方へと拡大し、いま戦禍にあるイラン、当時のペルシャなどの諸文化と融合する、社会的インフラの役割も果たしました。
古代から現代に至るまで、劇場は異なる価値観をつなぐ広場です。
皆さんは、この四年間、強い共感力を身につけました。どうすれば人々の中に共感の輪を広げていけるかという技術も学びました。どうか、その力を、異なる文化、異なる価値観を持つ人たちにも向けてください。それは観光と芸術を同時に学ぶ,本学での学びから得られる最も大きな利点です。
芸術とは差異の中から大きな共通項、同一性を見いだし、同時に、同一性の中から小さな差異をくみ取っていく行為です。その地道な営みの向こうにしか、他者への理解は生まれない。
皆さんの力で、この世界は,明日も生きるに値いするものだと証明してください。
皆さんが私の希望です。
卒業おめでとう。
今日の日は、皆さんの輝く未来の第一歩です。力強く歩みを始めてください。
令和八年三月二七日
芸術文化観光専門職大学 学長
平田オリザ
齊藤知事、國井理事長、大豊県議会副議長をはじめ、多くのご来賓にご臨席いただきました。
大学主催の学位授与式の後は、学生の2025年度卒業プロジェクト委員会主催によるイベント行いました。
